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さくらじま
桜島・日の果て・幻化
梅崎 春生
Read 桜島・日の果て・幻化 (さくらじま) by 梅崎 春生 (うめざきはるお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 169,810 characters · 345 screens
だから之に、通風のための穴を一つ掘るというのである。換気と涼風入れを兼ねた此の工事は、まこと良い思い付であったに違いなかったが、ある日私が現場に行って、私の直の兵隊が働いているのを監督がてら、計算した結果に依れば、此の風穴が完成するのは少くとも三箇月はかかるのである。十一月頃になったら、さだめし涼しい風が吹きこむことであろうと、むしろ腹立たしく、私は兵隊に話しかけた。
「此の工事は誰の命令だね」
「吉良兵曹長です」
「それまで此処が保つと思うのかね」
その兵は、もっこをわきに置いて、私の前に立った。
「此の穴が出来上らないうちに、米軍が上陸して来ますか」
真面目な表情であった。十五歳になるという少年暗号員である。私は莨を深く吸い込みながら、聞いた。
「勝つと思うか?」
「勝つ、と思います」
童話の世界のように、疑いのない表情であった。ふっと暗いものを感じ、私は掌をふって作業を始めるように合図した。そのとき、私は不機嫌な顔をしていたに違いない。私は立ち上り、莨を踏み消した。そしてあるき出した。
だらだら坂を登り切ると、丘の頂上は喬木の疎林となり、その間を縫う径を通るとき、暑い午後の日射は私の額にそそぎ、汗が絶え間なくしたたった。