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さくらじま
桜島・日の果て・幻化
梅崎 春生
Read 桜島・日の果て・幻化 (さくらじま) by 梅崎 春生 (うめざきはるお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 169,810 characters · 345 screens
突然入って行って悪かったなと、私は思った。今晩は、と私はあいさつした。
「何だ。君か。びっくりするじゃないか」
天願氏の胸はまだ動悸を打っているらしい。
「入るときは戸をたたけよ」
「今日は変ですねえ。何事かあるのですか」
取り乱した机の上から皺くちゃになった朝日の袋を探し出して、天願氏が火を点けた。その指がぴくぴくふるえた。
「いや。なに、考えごとしてたものだから」
声を急にひそめて、
「娘が死にかかってるんだ。ここの」
天願氏がいる部屋は四畳の細長い部屋で、此の奥に八畳の部屋がある。そこが此のうちの一番奥に当る部屋だが、そこを天願氏がゆびさして陰欝な顔をした。私は思わずその方向をふり返った。その部屋と境する壁のところから、ざわざわと殺気だったどよめきが流れて来るような気がしたのだ。
「今までうなり声がしてたんだが」と天願氏が煙をふいた。もう落着きを取りもどしたらしかった。
日の当らぬ湿地に咲いた花のような娘であった。ときどき廊下で私はすれちがったことがある。妙に派手な長い袖をつけていたりするので、白い顔が蒼白く見えたりする。すれちがうとき、笑を含んだような含まぬような曖昧な目付で人の顔を見る。