Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Read 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 145,078 characters · 285 screens
問題は甲斐の手に証文がにぎられているということだ。それは、兵部と自分のあいだにあるうちは反故も同然であった。けれども甲斐の手に渡り、その裏にある意図をみぬかれたとすると、反故どころではなく重大な意味をもってくる。しれ者め、と雅楽頭は歯をくいしめ、急に荒あらしく立ちあがった。
「憎いやつだ」と立ったまま雅楽頭は呟いた、「憎いやつだ、この日を前にして、人もあろうに大和守のふところへとびこむとは、――久世大和守、あの君子ぶったじじいめ、うん」
雅楽頭はまた懐紙を出して顔を拭いた。それを繰り返し、拭いた紙はまるめて捨てながら客間の中を往ったり来たりした。血色のいい唇をひき緊め怒りの眼で向うを見ながら、足音荒く、磨きあげた床板を踏みしめ踏みしめ、三歩いっては戻り、五歩いっては戻りした。彼の怒りは少しも弱まらなかった。頭の奥にひそんでいた記憶は、時が経つにつれてはっきりとその形をあらわし、現実よりもなまなましく、はるかに誇張されて、彼の自尊心を刺戟した。
――湯島でいちど、この屋敷でいちど。
二度の対面で、原田甲斐は二度とも彼を翻弄した。
――おれはあいつの正体が見たかった。