Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Read 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 145,078 characters · 285 screens
あいつの化けの皮を剥いでやりたかった、と雅楽頭は思った。だが、結果は二度ともおれの敗北に終った。甲斐は身分の差だけ肩腰を折ってみせたが、背骨は曲げなかったし、肚の中は微動もしていなかった。あのときすでに、そうだ、湯島で会ったときすでに、あいつはおれの胸の中を知っていたのだ。
「事は割れた」と雅楽頭は呟いた、「久世大和守は黙って見てはおるまい、彼は自分にも責任の一半があると考えている、伊達の老臣どもはもちろん、覚悟をきめているだろう」
彼は荒い足音をさせて立停った。
「今日の評定では、境論から始めて、家中仕置の政治問題をもちだすという」と呟いて、雅楽頭は眼をあげた、「――いざとなれば、甲斐はあの証文を差出すだろう、むろん、老臣どもと了解のうえだ」
事が割れたことは慥かだ、と彼は立停ったままで思った。いま自分には敵が多い、将軍補佐役の保科(正之)も板倉内膳(重矩)もおれの失脚を望んでいる。久世大和は清直居士というだけで、現にここへねじ込んで来たくらいだ。
――これでは六十万石に手をつけることはできない。
いまはもっとも情勢の悪いときだ、と彼は思った。おれにとって、もっとも情勢の不利なときに問題が起こった。