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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
Read 江戸三国志 (えどさんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 577,271 characters · 1141 screens
「父がひとりでまっていますからね」
「ウム……そういやお前の父親というのは、ころびばてれんの」
「嫌アよ! おじさんは」
打つまねをして眼に鈴を張りましたが、そのにらむ目をあべこべに、馬春堂がジッと見つめ返すものですから、お蝶はプイと怒ったように身をそらして、
「知らない。――嫌な人」
先に人ごみを縫って急ぎました。
「怒ったのかい、おい、お蝶さん、お蝶さん」
用もないが、からかい半分、前の仁王門の横手まで追って来ると、そこの玉垣の前にたたずんで、しきりと自分の方を注視している三人づれ。
二人の町人体は思い出せないが、目立つ方の秀鶴頭巾は、いつか忍川の売卜に応じたおぼえのある徳川万太郎にちがいない。
変な日というものがよくあるものです。
走馬燈の心棒に立ったように、いろんな影が自分を中心に織りめぐって、うしろにあるはずの影が前に居たり、前にさす影がうしろに居たり、心待ちにする影は来ないで思わぬ影がぽっかりと現われたり、すべて、疑心暗鬼から生まれる影が、目のさき足の先にちらついて、妙に心を臆病にさせる。
きょうの九星は何の日かわかりませんが、馬春堂、変な日だぞと考えました。