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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

Read 江戸三国志 (えどさんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 577,271 characters · 1141 screens

Aozora Bunko

伊兵衛が手早く入念に、仮面箱をつつんで肩越しに渡すと、馬春堂はそれをうけとって床板の隙穴へと、ズーと手をさしこみました。

そして、

床下の上へおくつもりで、そっと手から放しましたが、途端に――あっ! と伊兵衛も馬春堂も、色を失なって飛び上がりました。

そこは、わずか二尺か三尺と思いのほか、手を離れて行った洞白の仮面箱は、数丈も深さのある地底へ行って、やっと、ストンという遠い音を返して来たのです。

「た、大変だこいつは」

「飛んでもねエことをしちゃったじゃねえか。どうして、そんな所へ」

「まさか、賽銭箱の下が、こんなからくりになっていようとは思わない」

「えっ、困った! なんとかして引き上げる工夫はねえかしら」

「蝋燭を点けよう、蝋燭を」

「オオ、蝋燭なら、ここにいくらもある。早く火鎌を磨ってくれ」

焦燥と泣きたいような気持とが、カチカチッ、カチカチッ、と火花と散って、やがて、あたふたと点けた一本の灯を、手につかんだだけの蝋燭へ移して、それをかざしながら怪異な石神の足元をのぞきこむ……。

明邪御本体のわからぬ無名の石神様は、身に甲冑をつけ手に鉾らしいものを持ち、数百年の塵をあびて、顔容おそろしげに、足元で浅ましい狼狽ざまをしているふたりの人間どもを、冷々、見ておわすように思われました。