Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

Read 江戸三国志 (えどさんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 577,271 characters · 1141 screens

Aozora Bunko

「――わしは何できょうまで生きていたんだろうか」

髪の毛をつかんで、近頃目にたって衰えた肩をふるわし、かの柿の木の根元にうずくまりましたが、呪うても死ぬことのできない自分の生命を持てあますものの如く、額を抑えてふらふらと――陽炎の影よりはまだ薄い姿の影を、まばゆい春光によろめかせて行く。

「まア」

と、お蝶は家の中から、呆れたような目をみはって、

「まるで、気狂いみたい――。わたしがこんなに機嫌をとっているのに、何をいつまであんなに怒ッているのかしら?」

チッと、舌打ちをして膨れましたが、ふと、父が立ったあとの机に、お蝶の驚きを吸いつけたのは、見おぼえのある一枚の花櫛。

「あら?」

手にとってギョッとしました。

その摘み細工の花櫛には、血のようなものが黒く干からびている。忘れようとしてもかの女には忘れることができますまい――あの獄門橋の袂で、切羽つまッた果てに、生れて初めて人ひとりを突き殺したせつな――匕首の柄から指の股へと流れた人間の血の温みを。

その時落とした花櫛です。

獄門橋で落として来たのは生々しい事実にちがいないのに、二十日も経った後、どうしてそれが父の机の上にあるのだろうか?