Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
Read 江戸三国志 (えどさんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 577,271 characters · 1141 screens
しかし、お蝶はもう泣いてはおりません。ただ背なかに波を打っているばかり……ヒタと畳にひれ伏したきり、声も出さなければ逃げもしない。
瞬間、家の中は、おそろしいほどヒッソリとする。――二官は太い息を苦しげについて、なお怒れる拳を解かず、その手を膝に突ッ張ったまま、ぐったりとお蝶のわきに坐りました。
「お蝶ッ、顔を上げろ」
「…………」
「お前というやつは、まあ何という怖ろしい女だろう。わしはな、お前をそんな娘には育てなかったつもりだ。ころびばてれん、ころびばてれんと、衆人にさげすまれて来た永年の忍苦も、なんのためだ! ああそんなことも、今はいうほど身を苦しめる世迷い言、おれにすべての望みは失くなッた。お蝶ッ、わしはもう用も望みもない世の中を去るつもりだ。お前を連れて世を去るつもりだ。来いッ、父と一緒に来いッ――地獄の底へ」
脇差はいつのまにか、二官の右手に抜かれていました。
それでもお蝶は身ゆるぎもせずに、ジッとうッ伏しているきりです。――上の様子は分らないが、縁の下では道中師の伊兵衛が、
「はてな――いやにシンとして来やがったが? ――」
そういう時こそ、親娘が秘密なささやきをするのではないかと、気を廻してのび上がッた途端に、床板から出ている錆釘の先へ、コツンと頭をぶつけたのは、痛いともいえぬ災難でした。