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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
Read 江戸三国志 (えどさんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 577,271 characters · 1141 screens
「ど、どッちの方だい」
「岬だよ」
「岬ッて?」
「ここを真ッすぐさ、そこにな、魚見小屋があるから、すぐと知れるだ」
「あ、ありがとう、おばさん」
いいすてて勢いよく走りだしましたが、何か棒のようなものを蹴って、砂の上につンのめりました。
そして、前へころんだついでに足で蹴ったその棒を拾って、よい獲物とばかり小脇に持ちこみましたが、その先ッぽに、鋭利な刃物が光っているところを見ると、これは、漁師の置忘れた銛という物騒な道具に相違ありません。
波はごうごうと吠えています。はや、夜のとばりは相模灘をいちめんにとざしていますが、沖の一線は、月明りのように空が冴えて、しぶきをあげる波明りと共に、磯の道は案外足もとがよい。
と――
やがて次郎のあえぐ道が、岬の鼻へ向ってのぼりになって来たかと思うと、ごうッ――と耳をなぐる松風の間に、ちぎれ飛んでくる大勢の人声。
たしかに魚見小屋のあたりです。
きッと、空の明りにすかされる岬の松のかげを睨んで、
「畜生、見ていろ」
と、くちびるを噛んでつぶやくと高麗村の次郎、山に鯨を見つけでもしたように、モリを持ち直し道端へかがまりました。