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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

Read 江戸三国志 (えどさんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 577,271 characters · 1141 screens

Aozora Bunko

いつか釘勘と共に尾けて来て、道中師の伊兵衛を取逃がし、そのまま来る折もなく気になっていた目白の石神堂。

覚えのある喜連格子の古い御堂を前に見ると、万太郎は、あの時、馬春堂と伊兵衛とが蝋燭をともして、ここでコソコソやっていた挙動を思い出し、そッと、例の銭瓶の穴の辺を窺っていましたが、突然人の咎める声にハッとする。

堂の横からのッそりと出て来て、

(何をする?)

といわんばかりに監視の目を光らした男どもは、銭瓶の穴の変事以来、申し合せて、この御堂番をしている土着の者でした。

やましい気持のない万太郎は、ズカズカと自分から歩み寄って、

「その方たちは土地の者と見えるが、ちょッと、この堂の内部を検ためさせてくれぬか」

「駄目でがす」

「なぜ」

「なぜでも開けるわけにはいきません。はい。この武蔵一円の石神の司祭者御隠家様のおゆるしがなければ」

「御隠家とはどこの者じゃ」

「高麗の郷高麗村の御隠家様でござります」

「ではたずねるが、その後この堂へたれか立入った者はないか」

「きのうもここへ、うさんくさい男が来て、あなた様と同じような事を尋ねて行きましたが、何しろここの銭瓶の穴へ落ちた男の体は、すぐ御隠家のお使いが高麗村へ連れて行ッてしまったので、その後のことは私どもには分りません」