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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
Read 江戸三国志 (えどさんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 577,271 characters · 1141 screens
「やあ、それではいかにも殺伐な人間のようで……」と、武骨に頭へ手をやったが、またうれしそうに、
「それなのに、拙者は、月江様が入湯中も、一向ぶさたばかりしておりました故、今日はキッとお怨みをいわれるやも知れません」
「それはいかん、なぜ手紙をやらぬのじゃ。旅先では知人の手紙ほどうれしいものはない」
「気はついておりましたが、ちょうど、拙者と月江様とは人目うるさい年頃……もし御隠家様のお目でも忍ぶように噂されてはなるまいと思って」
「は、は、は、は、気の小さい奴じゃ。まだお前にも若者らしい正直さがあるのじゃな」
「まったく、この一本気の正直なために、よく友人などにも誤解をされましてな」
と、久米之丞は妙にソワソワしたり、またひとりで顔をどす赤くしたりして、
「御隠家、ちょッと、中座をいたします」
と、立ちかける。
「どこへ行く」
「とにかく、一応月江様に、御挨拶だけを済ましてまたここへ戻ってまいります」
「まア、よい」
と、老人は眉で抑えて、
「月江も今屋敷へ着いたばかり、疲れてもおろうし、支度もかえねばならぬ。――何かの事がすんだらここへ来るようにと申してあるから、お前が行かなくとも、やがて、ここへ見えるであろう」