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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
Read 江戸三国志 (えどさんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 577,271 characters · 1141 screens
「お前が夜光の短刀を探して来たらというわけじゃな。つまりそれを功にして」
「はっ、御意で」
「月江がほしいか」
「面目次第もない儀でござるが」
「あ、は、は、は、は」と千蛾は笑って――
「何もそう面目ながることはない。わしの目を盗んですることなら許さんが、夜光の短刀と取換えの約定で、堂々と、月江の婿になりたいという申込み、イヤ面白い、いかにも約束いたしてやろう」
「えっ、ではおゆるし下さいますとか。それで一段と骨折り甲斐もあるというもの、有難くお礼申しあげます」
「これこれ久米之丞、その礼はまだ少し早かろう。わしの先代も、その先々代も、生涯かかッて尋ねながら遂に探し得なかった夜光の短刀。間に合うかな? 月江が若い間に」
「自信がございます」
「ほう……」
「慶長の昔、この武蔵野にさまようて来て、御当家にもしばらく止まり、その後、夜光の短刀を持っていずこかにて世を果てた、ピオと申す羅馬の貴人の足跡を、やっとこの頃、少々さぐり当てたことがございますので」
と、久米之丞がなお話に実を入れかけていると、ザワッと風もないのに怪しい音。
ふと、ことばを切って、二人がそこの陶物床几から立ち上がって見ると、亭のうしろの山吹が微かにゆれていて、真ッ黄色な花の粒がまだホロホロとこぼれている。