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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

Read 江戸三国志 (えどさんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 577,271 characters · 1141 screens

Aozora Bunko

いかにも、狼狽したように見せかけましたが、どうも、垢抜けしすぎたその物腰や口ぶり、ほかの指の太い連中とは異なっておりますから、千蛾も、

「はて、この男は?」

と、燭を透かして、酔眼にジッと見直しました。

一方。

そッと席を外した久米之丞は、奥深い屋敷の間数を越えて、やがて薄暗い橋廊下を手さぐりで渡ってゆく。

その突き当りに、錠のかかッている厚い欅戸があり、かれは、その外へピッタリと身を寄せて、シンとした中の気配をさぐっていました。

この離屋は橋廊下をへだてて、二重壁となっている一見奇怪なからくり普請。

例の馬春堂先生が、桃源の夢こまやかであッたり、地獄の羅刹に魘されたりしながらも、どうしても逃げ口がない八方ふさがりの密室! いわば暗剣殺の居所であります。

奥の酒宴を抜けて、かれがここへ来たのは、いうまでもなく千蛾老人の指金をうけて、馬春堂の生き胆を料理しに来たものに相違ありません。

しばらくそこで、密室のうちの気配に、耳をすましていた久米之丞、刀の下緒を解いて片袖をむすび、

「ウム、寝ているな……」

ニッと、殺気のある笑みを流しますと、そこの錠口に手をかけました。