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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
Read 江戸三国志 (えどさんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 577,271 characters · 1141 screens
「あれだよ、この前の市に、おれたちが青梅から来る途中、女影の手前でぶつかッた女の魔物だ」
「ヘエ……弥助のやつも出会ったって?」
「うム」
「いつ頃?」
「もう半月程まえだそうだが、その時は、今小屋にかかっている嵐粂吉一座の者や、八王子の宿場問屋を出て来た者が大勢一緒だったから、何の事もなかったそうだが、でも、途中で大怪我をしている侍があって、それをこの川越までみんなして助けて来てやったそうだ」
「じゃ、あの女を、見たというわけじゃねえのだろう」
「だが、多分あの女の為業にちがいないと、あとで、みんなが噂しているのだ」
と、真面目になって、その男は、この晩春の頃、自分たち青梅の仲間が実際に出逢ったという、女影の鬼女の話をもち出しました。
最前から、一隅に、葭簀を囲って飲んでいた日本左衛門は、それを小耳にはさむと、吾を忘れて聞き入っておりましたが、
「稲」
と、編笠をうしろに向けて、
「あの男を、ここへ呼んで来てくれねえか」
と小声で言う。
稲吉は目交ぜで立って、つかつかと連中の前へ行き、揉み手をしながら、
「エエ親方」
と、喋舌っていた男の前に小腰をかがめました。