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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
Read 江戸三国志 (えどさんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 577,271 characters · 1141 screens
八王子千人町の夕暗から、絶えず、この二人が背後にいたことを気付かなかった不覚が、まったく久米之丞の禍いの因をなしていました。しかしそれも、今は及ばぬこととなって、死骸となった血みどろな彼の五体は、金右衛門の足の先から、月江のあとを追って同じ谷底へと顛落して行きます。
「金右衛門、何かあったか」
と、日本左衛門がそれに振向くと、
「ウム……小銭のはいっている紙入れが一つ」
返辞はしません。
日本左衛門はただ苦い顔つきで――
金右衛門は死骸から取り上げた幾つもの品のうちから、その紙入れを撰って谷底へポンと捨てて、次に、
「――白扇が一本。こんな物もしようがねえな」
と、それも抛り捨てながら自問自答に、
「懐紙、銀ぎせる、印籠、みんなろくでもねえ物ばかりだが、この懐紙の間にこんな、いたずら書きがしてある……」
「どれ」
と、初めて日本左衛門が手を出しました。
それは、ほんの心覚えだけに、久米之丞が懐紙へ書きつけておいたものらしく、
羅馬人ピオ――鶏血草――終焉――山岳切支丹族――蜻蛉屋久助――逃水組――王家の秘宝――痣――武蔵野――夕顔城――赤城――秩父――不明。