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ふどうするちか
浮動する地価
黒島 伝治
Read 浮動する地価 (ふどうするちか) by 黒島 伝治 (くろしまでんじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 14,079 characters · 29 screens
一〇
僕は立つことの出来ない親爺を見ながらなぜか、清々とするものを感じるのだった。
村は、歓喜の頂上にある者も、憤慨せる者も、口惜しがっている者も、すべてが悉く高い崖の上から、深い谷間の底へ突き落されてしまった。喜ぶことはやさしかった。高い所から深いドン底へ墜落するのは何というつらいことだろう!
荒された土地には依然として雑草が繁茂し、秋には、草は枯れ、そこは灰色に朽ち腐った。
一〇
やがて親爺が死んだ。
慶応年間に村で生れた親爺は、一生涯麦飯を食って、栄養不良になることも、早く年を取り、もうろくすることもかまわずに、たゞ、いくらかの土地を自分のものとし、財産を作って、子供に残してやろうと、そればかりを考えていた。
死ぬ前には、親爺はぼれていた。若い時分、野良で過激に酷使しすぎた肉体は、年がよるに従って云うことをきかなくなった。
親爺は、肥桶をかついだり、牛を使ったりするのを、如何にも物憂げに、困難げにしだしていた。米俵をかつぐのは、もう出来ないことだった。晩には彼は眠られなかった。四肢がけだるく、腰は激しい疼くような痛みを覚えた。昔は自分の肉体など、感じないほど、五体が自由に動いたものだった。