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ゆしまのけいだい

湯島の境内

泉 鏡花

Read 湯島の境内 (ゆしまのけいだい) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 8,674 characters · 18 screens

Aozora Bunko

俺は勘当されたッて。……何をお前、両親がお前に不足があるものか。――位牌と云うのは俺の位牌だ。――

お蔦 ええ。

早瀬 お蔦、もう俺ゃ死んだ気になって、お前に話したい事がある。

お蔦 (聞くと斉しく慌しく両手にて両方の耳を蔽う。)

早瀬 ちょっと、もう一度掛けてくれ。

お蔦 (ものも言わず、頭をふる。)

早瀬 よ。(と胸に手を当て、おそうとして、火に触れたるがごとく、ツト手を引く)死ぬ気になって、と聞いたばかりで、動悸はどうだ、震えている。稲妻を浴びせたように……可哀相に……チョッいっそ二人で巡礼でも。……いやいや先生に誓った上は。――ええ、俺は困った。どうしよう。(倒るるがごとくベンチにうつむく。)

お蔦 (見て、優しく擦寄る)聞かして下さい、聞かして下さい、私ゃ心配で身体がすくむ。(と忙しく)早く聞かして下さいな。(と静に云う。)

早瀬 俺が死んだと思って聞けよ。

お蔦 可厭。(烈しく再び耳を圧う)何を聞くのか知らないけれど、貴下この二三日の様子じゃ、雷様より私は可恐いよ。

早瀬 (肩に手を置く)やあ、ほんとに、わなわな震えて。

お蔦 ええ、たとい弱くッて震えても、貴方の身替りに死ねとでも云うんなら、喜んで聞いてあげます。