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ゆしまもうで
湯島詣
泉 鏡花
Read 湯島詣 (ゆしまもうで) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 62,004 characters · 122 screens
突かれて手の甲に傷けられたものも一名ある、ようよう掴まえてからも危険だから、腕は捻じ上げておかねばならぬ。且つその住所、姓名、身分の手懸を知るために、懐中物も検べねばならず、或はいかなる迫害を途上受けたかも計られないから、身内を検するには、着物も脱がさなければならぬ、もちろん帯も解かんけりゃ不可い。逆上て夥多しく鼻血を出すから、手当をして、今冷している処だといった。学士がここに来た時には、既にその道を行く女に尾行した男というのが明かに分っていた。
交番の窓に頬杖を支いて、様子を見ている一名紋着を着た目の鋭いのがすなわちそれで、渠は学士に怨のある書生の身の果で、今は府下のある小新聞に探訪員たる紳士であった。
「やあ、神月。」
これにも答えず、もとより警官には返すべき言もなく、学士は見る目も可憐さに死んだもののようになっている蝶吉を横ざまに膝に抱上げた。
「神月だ。」
思わず骨も砕くるばかり、しっかと縋って離れぬのを、賺かして、帯をしめさせて、胸を掻合せてやって、落散った駒下駄を穿かせて、手を引いて交番を出ようとする時、
「そら忘物だ、」といって投出して呉れたのは、年紀二十の自分の写真、大学の制服で、折革鞄を脇挟んだのを受取って、角燈の灯の達かぬ、暗がりの中に消えてしまった。