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せんこうてい「ハビヒツブルグ」
潜航艇「鷹の城」
小栗 虫太郎
Read 潜航艇「鷹の城」 (せんこうてい「ハビヒツブルグ」) by 小栗 虫太郎 (おぐりむしたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 132,395 characters · 263 screens
まして、上司である警部補にそれを云うということは、今の身分として、はなはだ当を得たことではない。彼は、左枝八郎の姿に、悲劇的なものを感じながら、それから黙々と考えはじめたのである。
われわれは、常に過失を犯している。
しかし、検事の起訴理由には、寸毫の謬りもないのである。
船場四郎太が、遺書に告白を残して死んでいったということも、人であり、神でないかぎりは窺うことさえ出来るものではない。まして、矢伏の犯行には、自白を伴っている。いわば、それは確実以上の事実である。それを一瞬の間に、覆してしまうような、怖ろしい力が現われたとき、人は不可抗とだけで、悔いの欠片も残さずケロリと断念めてしまうものである。
人間は、自分の力の限りというものを知っている。
けれども、稀に出る、高い稟性を持つ人物というものは、よく自分を、人間以上のとんでもない位置に置きたがるものだ。検事の苦悶も、呵責も、実にそこから発しているのではないか。彼はいま、不可抗と闘いながら、路傍を彷徨っている。人が裁くか、神が裁かれるか――それこそ、人間の一番な壮烈な姿であろう。
と、やがて若い巡査には、ひしと胸を打つ、ひたむきなものが感ぜられてきた。