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せんこうてい「ハビヒツブルグ」
潜航艇「鷹の城」
小栗 虫太郎
Read 潜航艇「鷹の城」 (せんこうてい「ハビヒツブルグ」) by 小栗 虫太郎 (おぐりむしたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 132,395 characters · 263 screens
部屋は薄暗く、水色の覆いが掛っていて、肩に腰に、妙に媚めかしい、ぬくもりが触れてくる。
ハハア、早苗の部屋だな――そう思って、相手のくるぶしに合せて、ぐいと伸びをした時、いつもなら、胸骨の上あたりを撫でる頸筋の後れ毛が、今夜はずうっと下って、乳辺にあるのに気がついた。
饐えたような、髪毛の匂いがぷうんと鼻を衝く。
お悦だ――と彼はそうと知ると同時に、なぜ自分が、ここへ運ばれてきたのか、不審に思わないわけにはゆかなかった。
すると、その時壁一重の向うに、誰やら、コトリコトリと歩き廻るような音が聴えてきた。今夜は客もない、真暗な隣室に――と思うと、われにもなく、三伝という異様な動悸が弾んでくる。
しかし、なおも耳を澄すと、それは隣室ではない。この室の、しかも間近である。
そうして、お悦の肩越しに、寝台の床を覗き見ようとしたとき、彼はそこに見た、怖ろしい何ものかに身を竦ませたのである。
お悦の胸には、細い機械錐のようなものが心臓深めに突き刺されていて、そこから、真紅の泉が滾々と湧き出してゆくのだった。
敷布の先を伝わって、雨滴れの合間を縫って……そうしてその時も、地蟲の嗄れたような声を聴いたのである。