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せんこうてい「ハビヒツブルグ」
潜航艇「鷹の城」
小栗 虫太郎
Read 潜航艇「鷹の城」 (せんこうてい「ハビヒツブルグ」) by 小栗 虫太郎 (おぐりむしたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 132,395 characters · 263 screens
もっとも、衝立の蔭で、観客に見えない場所で死んだのですから、疑惑と云えば、その点が多少どうかとも思われますがね」
法水は、検屍官の言を聴くともなく、傍らにあった、お岩の半面仮髪を弄っていた。
それは、右眼の下のところまで被さるもので、髢を解いて一本ずつ針に通し、それを羽二重に植え付けたものである。
つまり、そこに髪梳きの、技巧があるというわけだが…その時は仮髪師為十郎の趣向からして、幕切の見得の際には照明を暗くさせ、眼だけを白く抜いて、真赤に滲み出る毒血の凄みを、内部に塗った、燐で浮き出させる仕掛けにしたのである。そしてまた、これは後日のことであったが、そうして宅悦の顔に滴り落ちた血糊の紅には、何一つ検出されたものはなかったのであった。
法水は、その仮髪を置くと、はじめて思い出したように検屍官を見て、
「なるほど、衝撃死ですか。しかし、衝撃と云っても、貴方はその対照が、何ものであるか、御存知ないのでしょう。ハハハハ、衝撃をうけて風のようにこの世を去った――ただそれだけでは、少しでも、秘密の感受性に強いと、その人間に、貴方は嗤われますぜ。たぶん貴方は、幕切の際に、照明を暗くしたことは御存知でしょうが、その時、この老人の心動を止めたものがあったのですよ」