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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
Read 潤一郎ラビリンスV――少年の王国 (こぞうのゆめ) by 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 71,989 characters · 144 screens
」と、厳しく警められた上人の掟を破って、再び山に住むことが出来るだろうか。
「浮世には無数の厄難が待ち構えて居る事は、勿論覚悟して居るのだ。猛獣の牙にかゝり、盗賊の刃に脅やかされるのも、佛法修行の一つではないか。過まって命を落しても、こうして煩悩に苦しめられて居るよりは、増しではないか。それに先達の話では、都はこゝから僅かに二里の道のりで、朝早く山を下れば、晝少し過ぎには帰って来られると聞いて居る。都へ行くのが遠ければ、麓の坂本の宿へ降りても、女人を見ることは出来るそうな。たった半日上人の眼を掠めれば、まろの望みは遂げられるのだ。よしや後になって露顕しても、悟りの道の妨げになる疑惑を晴らす事が出来たら、必ず上人も喜んで下さるに極まって居る。そなたが案じてくれるのは忝いが、どうぞ止めずに置いてくれ。まろの決心は堅いのだ。」
千手はきっぱりと云い切って、脚下に展けて居る琵琶湖の水面の、暁の霧の中を滑るように昇って行く日輪を眺めながら、
「幸い今日は又とない好い折だ。此れから出かければ未の刻には帰って来られる。無事で戻ったら、今宵はそなたに珍しい浮世の話を語って進ぜよう。