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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
Read 潤一郎ラビリンスV――少年の王国 (こぞうのゆめ) by 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 71,989 characters · 144 screens
乱雑な騒々しい往来の噪音の奥から、身も心も浮き立つようなメロディとリズムとが響いて来る。己の眼には始終微妙な幻影が映って居る。朝な夕な店頭に据わって眺め暮らして居る銀座通りの光景が、動ともすると燦爛たる宝石の羅列するように見えたり、房々とした女の黒髪ののたくるように見えたりする。或る時などは、其れ等の音楽やら幻影やらが、多種多様な形式を取って、極めてハッキリと、現実の世界よりも遥かに確実に、己の魂を占領し、己の全生活を吸収してしまう。之を要するに、己は絶えず酔っ拂って居る。酒は飲まないが、何か知ら外の物に酔っ拂って居る。そうして、現在の仕事や義務や身分などを悉く忘却して、想像の国に漂泊しながら、恍惚たる心境を持続して居る。
「おい、おい、庄どん! お前は何処を見てるんだな。ちっとシッカリしないかい!」
こんな工合に、己は時々番頭から叱り飛ばされる事がある。叱られると己はいつでもハッと思って、気を取り直す。「一体自分は、なぜ此のように了見がふわふわして居るのだろう。愚にもつかない事ばかり考えて居るのだろう。もっと心を入れ換えて、沈着な、質実な人間になれ。