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みおつくし
澪標・落日の光景
外村 繁
Read 澪標・落日の光景 (みおつくし) by 外村 繁 (とのむらしげる) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,889 characters · 268 screens
が、今度はたつが先きに立って歩いて行く。木戸を開けると、梅林である。
「梅ならうち家にもあるわ。けんど、梅は酸いさかい、ほない好かん」
「砂の中へ入ると、おこられるぞ」
自然石を土で重ね、その上にむべ垣がある。それを廻ると、苔を敷き詰めた前栽である。赤松を主にし、高野槙、五葉松、檜、椎、ゆずりは、山茶花等が植え込まれている。楓も目立って多い。私は飛石伝いに歩いて行った。
「苔を下駄で踏むと、おこられるぞ」
「ようおこる家やな」
築山の裾に、幹が六本に分れた松の木がある。
「よし、あれに上ったろ」
たつがそう言ったかと思うと、突然、跣になり、駆けて行き、その一本の幹を上り始めた。たつは実に巧に上って行く。しかし私はすっかり度胆を抜かれた思いで、声を発することもできない。たつははだけた膝を巧に屈伸して、既に高く上って行く。
たつは松の一枝に腰かけ、二本の脚を垂れた。それからひどく気取った恰好で、片手を額に当てる。小手にかざしたつもりらしい。たつが何か言っている。しかしその声は聞えない。私は初のうちは呆気にとられたが、次第に愉快になって来た。
「たつ、東京が見えるか」