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むせんでんしんのきんじょう
無線電信の近状
寺田 寅彦
Read 無線電信の近状 (むせんでんしんのきんじょう) by 寺田 寅彦 (てらだとらひこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 2,176 characters · 5 screens
無線電信というものは一体どうして出来るものかという事は今ここで喋々せずともの事であるが、順序として一応簡単に云ってみれば、発信所で一つ大きな電気の火花を飛ばすとその周囲より空間全体に瀰漫するエーテルに一種の波動を起し、この波動はエーテルを伝わって八方に拡がる。その有様は丁度静かな池の面に一つの石を投げ込んだ時、そこから起った波が次第に大きな輪となって拡がって行くようなものである。池の波紋が遂に汀に達すると、そこに浮いている木の葉や板片が動揺し少時してまたもとの静平に復する。電気の波はもとより眼にも見えず耳にも聞えぬものだが、特別な受信器にはよく感じその器械の中で電気の動揺が起る。これだけの事を利用して通信の目的を達するに必要な物は、第一に発信所で電波を起す装置、第二に電波をなるべく遠方に達せしめるようにする仕掛け、第三には受信所に達した電波を受取る道具、第四には受取った電波に感じてあるいはベルを鳴らしあるいは符号を書いて電波の来た事を知らせる器械とこの四つが主なものである。
先ず第一に電波を起すために従来多く用いられたのは、いわゆる火花式またドイツのテレフンケンシステムと称するもので、すなわち感応コイルを用いて強烈なる火花を起し、その放電によって電波を生ずるのであるが、かくして起った波は不規則で、波の