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しょうどにのこるかい
焦土に残る怪
田中 貢太郎
Read 焦土に残る怪 (しょうどにのこるかい) by 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 1,076 characters · 3 screens
昭和九年三月二十一日の函館の大火は、その日の午後六時から翌朝の七時まで燃えつづけて、焼失家屋二万四千戸、死傷者三千人を出したが、その時火に追われた市民は、猛火の中をくぐって安全な場所から場所へと逃げ廻った。しかし、風速三十メートルの烈風に煽られた猛火の中では、どうすることもできなかった。
山から海へ、避難民は続々としておしかけたが、そこでもまた猛火に包まれて焼死する者、或は海に入って溺死する者など、その惨状は全く眼のあてられないものがあった。
そのうちでも最も烈しかったのは、函館市の東南になった大森浜であった。従ってここには、多くの哀話とともに鬼魅悪い話が残っている。
深夜の海岸には、どこからともなくむせぶような、泣くような声が聞えて来る。青い鬼火が、そこにもここにもふわふわと浮んで、それが烈しい勢で町の方に飛んだり、焼け残った樹木の枝や電柱にあたってばらばらとくだけた。
警官の一人が巡廻していると、眼の前へ髪をふり乱した女が出て来たが、その女は生れてまもない嬰児を負い、両手に幼い小供の手を曳いていた。女は蒼白い顔を星の光にちらつかせながら、小供の手をぐいぐいと曳いた。