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てりはきょうげん
照葉狂言
泉 鏡花
Read 照葉狂言 (てりはきょうげん) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 49,730 characters · 100 screens
小さき池は、舞台の真下になりたれば、あたかも可しとて、興行はじむる時、大瓶一個、俯向けて埋めたり。こは鼓の音冴えさせむとてしたるなりき。
揚幕より推出されて、多勢の見物の見る目恥かしく、しのぶ、小稲とともに狂言のなかに立交りて、舞台に鞠唄うたいし声の、あやしく震いたるも多日がほどぞ。
振のむずかしき、舞の難き、祭礼に異様なる扮装して大路を練りありくそれとは同じからず。芸に忠にして、技に実なる、小親が世における実の品位は神ありて知りたまわむ、うつくしき蒲団に坐る乞食よと、人の口さがなく謂わば言え。
何か苦しかるべき。この姿して、この舞台に立ちて、われは故郷の知人に対していささかも恥ずる心なかりしなり。
されども知りたるは多からず。小路を行交う市人もすべてわが知れりしよりは著しく足早になりぬ。活計にせわしきにや、夜ごとに集う客の数も思い較ぶればいと少し。
物語の銀六は、大和巡する頃病みてまかりぬ。小六はおいたり。しのぶも髪結いたり。小稲はよきほどの女房とはなりぬ。
その間、年に風雨あり。朝に霜あり。夕に雪あり。世の中とかく騒がしかりければ、興行の収入思うままならで、今年この地に来りしにも、小親は大方ならず人に金借りたるなり。