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てりはきょうげん
照葉狂言
泉 鏡花
Read 照葉狂言 (てりはきょうげん) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 49,730 characters · 100 screens
されど気丈なる女なれば、今なお恙なかるべし。
小親いまだその頃は、牛若の役勤めていつ。銀六も健かに演劇の真似して、われは哀なる鞠唄うたいつつ、しのぶと踊などしたりし折なり。
あたかもいま小親が猫を追わむとて、煙管翳したるその状なりしよ。越前府中の舞台にて、道成寺の舞の半ばに、小六その撞木を振上げたるトタンに左手動かずなり、右手も筋つるとて、立すくみになりて、楽屋に舁かれて来ぬ。
しからざりし以前より、渠はこの僂麻質の持病に悩みて、仮初なる俥の上下にも、小幾、重子など、肩貸し、腰を抱きなどせしなり。
月日に痛み重るを、苦忍して、強いて装束着けたりしが、その時よりまた起たずなりき。
楽屋にては小親の緋鹿子のそれとは違い、黒き天鵞絨の座蒲団に、蓮葉に片膝立てながら、繻子の襟着いたる粗き竪縞の布子羽織りて被つ。帯も〆めで、懐中より片手出して火鉢に翳し、烈々たる炭火堆きに酒の燗して、片手に鼓の皮乾かしなどしたる、今も目に見ゆる。
手の利かねば、割膝にわが小さき体引挟みて、渋面つくるが可笑とて、しばしば血を吸いて、小親来て、わびて、引放つまでは執念く放たざりし寛闊なる笑声の、はじめは恐しかりしが、果は懐しくなりて、そと後より小さき手に目隠して戯れたりし、日数もなく、小六は重き枕に就きつ。