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いなかきょうし

田舎教師 他一編

田山 花袋

Read 田舎教師 他一編 (いなかきょうし) by 田山 花袋 (たやまかたい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 156,097 characters · 312 screens

Aozora Bunko

二十六

と言って、箸を取った。豆腐汁に鮭、ゴマメは生で二疋ずつお膳につけた。一室は明るかった。

母親は今夜中に仕立ててしまわねばならぬ裁縫物があるので、遅くまでせっせと針を動かしていた。清三はそのそばで年賀状を十五枚ほど書いたが、最後に毎日つける日記帳を出して、ペンで書き出した。

三十一日。

今歳もまた暮れ行く。

思ひに思ひ乱れてこの三十四年も暮れ行かんとす。

思ふまじとすれど思はるるは、この年の暮れなり。

かくて最後の決心はなりぬ。

無言、沈黙、実行。

われは運命に順ふの人ならざるべからず。とても、とても、かくてかかる世なれば、われはた多くは言はじ。

明星、新声来る。

ああ終に終に三十四年は過ぎ去りぬ。わが一生において多く忘るべからざる年なりしかな。

言はじ、言はじ、ただ思ひいたりし一つはこれよ、曰く、かかる世なり、一人言はで、一人思はむ。ああ。

かれは日記帳を閉じてそばにやって新着の明星を読み出した。

二十六

一月一日。(三十五年)

これは三年の前、小畑と優なる歌記さんと企てて綴りたるが、その白きままにて今日まで捨てられたるを取り出でて、今年の日記書きて行く。

□去年、それもまだ昨日、終に世のかくてかかるよと思ひ定めては、またも胸の乱れて口やかましく情とくすべも知らず。