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まゆかくしのれい
眉かくしの霊
泉 鏡花
Read 眉かくしの霊 (まゆかくしのれい) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 26,284 characters · 51 screens
この旅館が、秋葉山三尺坊が、飯綱権現へ、客を、たちものにしたところへ打撞ったのであろう、泣くより笑いだ。
その……饂飩二ぜんの昨夜を、むかし弥次郎、喜多八が、夕旅籠の蕎麦二ぜんに思い較べた。いささか仰山だが、不思議の縁というのはこれで――急に奈良井へ泊まってみたくなったのである。
日あしも木曾の山の端に傾いた。宿には一時雨さっとかかった。
雨ぐらいの用意はしている。駅前の俥は便らないで、洋傘で寂しく凌いで、鴨居の暗い檐づたいに、石ころ路を辿りながら、度胸は据えたぞ。――持って来い、蕎麦二膳。で、昨夜の饂飩は暗討ちだ――今宵の蕎麦は望むところだ。――旅のあわれを味わおうと、硝子張りの旅館一二軒を、わざと避けて、軒に山駕籠と干菜を釣るし、土間の竈で、割木の火を焚く、侘しそうな旅籠屋を烏のように覗き込み、黒き外套で、御免と、入ると、頬冠りをした親父がその竈の下を焚いている。框がだだ広く、炉が大きく、煤けた天井に八間行燈の掛かったのは、山駕籠と対の註文通り。階子下の暗い帳場に、坊主頭の番頭は面白い。
「いらっせえ。」
蕎麦二膳、蕎麦二膳と、境が覚悟の目の前へ、身軽にひょいと出て、慇懃に会釈をされたのは、焼麸だと思う(しっぽく)の加料が蒲鉾だったような気がした。