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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
Read 私本太平記(五) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 252,330 characters · 505 screens
そして、十六日は、うごかなかった。
兵馬をやすめ、また帷幕ではひそかに、鎌倉入りの作戦、部署の秘など、練っていたもの。
またこのうちにも、武州の熊谷直方、直春。常陸の塙大和守、陸奥の人石川義光など、一族して投じてきた。上方では六波羅の滅亡、東国では新田軍の優勢と、いまや幕府の悲境は、諸州、かくれもなくなっていた。
それと、武人の間では。
足利どのの若御料
という呼び声が、一種の人気のようによく人の口端にのぼった。若御料とは、千寿王への敬称である。たんに可憐であるためか。それとも別な何かであるのか。とにかく、陣中の人気はこの稚子君にさらわれた観がある。
いよいよ十七日。――関戸陣を払って、鎌倉攻め開始の日には、彼ら、若御料を愛する武士たちは、幼君の輿を牛車の上に組み立て、紫の小旗をひるがえし、前後、ものものしい騎馬鉄槍で守りながら、中軍について前進した。――義貞はふと嫌な顔したが、また児戯に似た業とも見直したように苦笑していた。
暗君片鱗
みな黒髪を投げ伏せて泣いていた。柳営の大奥なのである。……むつらの御方、お妻の局、百合殿の小女房、常葉の局など、なぐさめてもなく、とり乱している。