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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

Read 私本太平記(五) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 252,330 characters · 505 screens

Aozora Bunko

「こうして、ふたたびお目にかかれる日があろうとは……」

親王は、父後醍醐との一年半ぶりの邂逅に、人の子の情と自然な嗚咽をどうしようもない姿だった。

「馴れぬ配所で、からだでも悪うしたのか」

と、さすが後醍醐も、いたましげなお目をそばめた。

親王は、やっと涙をふいて。

「いえ、べつに病みはいたしませぬが、あけくれ、隠岐の絶海や、また都のあとをのみ思って……。あれいらいは」

「物もよう喰べなんだのであろう。護良とちごうて、其許は生れながら体もひよわい、気もよわい。こういう世に生きるには、もっと心を大きく身もたくましく持たねばならんな。これからは何が望みか」

「何も望みませぬ。ただただ、二度と戦のないことが望まれまする。今、かえりみてもぞっといたします。……これは、捕われて讃岐へ流される前の詠草ですが」

「どれ、見せい。なに、

思ひきや

手もふれざりし

あづさ弓

おきふし我れに

馴れむものとは

とか。はははは、いかにも宗良らしい歌よな。だがこれからは、すべて朝政に一統され、公武の別などなく、武士も朝臣としてみな朝に仕え、公卿も武を忘れてはならぬのだ。そことても、世捨て人にならぬかぎりは」