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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
Read 私本太平記(五) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 252,330 characters · 505 screens
危険を増長させるのみである。諫言はたびたび奏してあるがお用いのふうもないのだ。といってこの趨勢を坐視してはいられない。
宮は、喪の門に、その閑に、たえきれなかった。
そこで今日、殿ノ法印を、おなじ思いの千種忠顕の所へやったわけであったが、忠顕はこう分別を、お答えしていたのである。
「とかく足利の方でも、われらへ目を光らせているにちがいありません。ましてご服喪の折、野駈けに出て、洛外で密談に寄り合うなどはまずいでしょう。……それよりは新田と二人で、こよいひそかに御所へ参じまする。ほかに耳よりな或る一事もございますので、万事くるめて、そのせつの御談合にゆずりたいとぞんじます」と。
やがて。夕日も静かに。
神泉苑の御所は、赤松の幹のほの赤い縞目の奥に墨いろを刷いていた。
「たれだ?」
宮はお湯殿の内だった。
湯上がりのつやつやしい濡れ髪を、愛妃のお手で櫛梳らせ、その総髪の毛さきを、剪り揃えさせておられたのである。
「召次の者か」
「は」
青侍の姿は、廊の外にかがまったままでいた。
「待たいでもよい。そこでいえ、何の用だ」
「ただいま、河内守どのがおとずれてみえられましたが」