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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
Read 私本太平記(五) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 252,330 characters · 505 screens
「そうだなあ、戦に追ン廻された日を思えば、まだましかも知れないて。……おや、来たよ」
「役人だね。……また河原に落首が立っているかとおもって、抜き捨てに来たんだろ。……はて、そうでもないのかな?」
染屋の紺掻き男と、いつも河原で笊を編んでいる老職人との、ふたりだった。
役人がこっちへ来る様子なので、紺掻きは流水に脛をひたして、せっせと、布を晒しはじめ、老人は手ぎわよく竹を割いては、ウネリをくれて、鉈台のわきにそれを揃えていた。
「こら、雑人ども」
「へい」
「あっちへ行け」
「へ?」
「はやく行かんか」
役人は、二人を追っ払うと、うしろに連れていた刑吏と土工らしい者たちへ命じ出した。
「このへんでよかろう。なにせこんどのご処刑は首かずが多いのだから、矢来もひろく取らねばならんし、獄門台も渡してある図面どおり幾ツも要する。ここらを中心に、まず囚人のツナギ杭を、一間おきに打ちはじめろ」
いやな槌の音が、こんこんと、加茂の水にひびきはじめた。
そして、次の日には、ここで十数名の人々が首斬られた。もと鎌倉の幕臣、阿曾ノ弾正時治、長崎高真、佐介貞俊、以下いずれも、去年の千早包囲軍をひきいていた鎌倉方の首将や侍大将たちで、そのご奈良へ逃げ籠り、また奈良で敗れて、ついに宮方へ降参に出ていた面々だった。