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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
Read 私本太平記(五) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 252,330 characters · 505 screens
――で、親しく令旨のお使いがくだれば、道誉にとり、初めて宮御所の門をくぐるの栄を許されたことにもなる。
宮御所のお旨をおびた召の使者は、すぐ佐女牛の道誉のやしきへ急いで行った。
もう深夜だ。それをしおに、
「あとは道誉が見えてから」
と、軍議もひとやすみに入り、
「寒いっ」
と、人々は肩をそばめあった。
「はや子か、丑ノ刻か」
と、鼻赤らめて、みな凍る息を手でかこむなどの姿に、宮もまた、
「良忠。夜食を」
急に、それをうながして、なお追っかけに、
「酒もだぞ。酒を先に」
と、いいつけられた。
小半刻のまに、座景はすっかりあたためられ、酒は人々の語調まで活溌にかえだしていた。
酒のおつよい宮は、しきりと、大杯をかたむけられる。物など喰がらず、それは見る目も小気味よい飲み振りだった。二十七の若さが、そこには誇って色に出ている。
尊氏何者ぞ
との御気概は、しぜん列座のすべてをも異常な酔いの霧につつんでいた。寒気と空腹へそそぎ込まれた酒である。あらあらしい血の脈を、どの顔も、こめかみに膨れさせ、人々は一足跳びに、原始人めいた殺ばつな鼻息や放言になっていた。
夜明けとともに、ここを本営とし、兵の配備、遊撃隊の潜行、第二次の動員、それらの結集地点など、作戦のあらましはもうつくしている。