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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

Read 私本太平記(五) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 252,330 characters · 505 screens

Aozora Bunko

……でないと、忠顕にも、なにやら俄に信じがたい」

「ごもっともです」

公重は、気がついたように、置かれてあった天目の茶をうつつなく服んだ。

そしていうには。

先年、北条一門滅亡のさいに、執権高時のじつの弟、北条左近大夫泰家は、奥州へのがれていたが、ほとぼりもさめた頃と、京都へ入りこみ、旧縁をたよって、いつからか西園寺の内に寄食し、名も、

刑部ノ少輔時興

と、変えていた。

元々、西園寺家と北条氏とは、遠い承久の乱いらいの深い因縁がある。当時、関東方について、北条氏に協力したので、それからの西園寺家は、朝廷にあっては関東の出店役をなし、関東へ向っては朝廷の代弁者として、いわゆる共存共栄の利を代々幕府とともにしてきたのだった。――いまさら北条の亡命者に、すげなくはできない。

いや北山殿の公宗自身が、建武新政の世の下では、まったく失意の人でもある。で、ここの斜陽の門と亡命者との結びつきは、必然なように、

「ふたたび、天下を」

と、大それた陰謀を持ち、世間もしらぬまに、密事も着々すすんでいる――と、公重はいうのであった。

「……む、なるほど」

忠顕はうなずいた。