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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
Read 私本太平記(五) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 252,330 characters · 505 screens
死者への詫びやら慙愧やらに、ここのお人々も、かなしみに悶え、果ては茫然と、そのご運命をぜひなく賊手にまかせられたものだとおもう。
ところが古典の文章は、奇怪にも、ここでまた一転して、
さる程に、五ノ宮の官軍ども
主上上皇を取進らせて
その日まづ、長光寺へ入れ奉る――
と、それまでは、野伏強盗あぶれどもの集まりとしていた賊方を、急に“官軍”とよんでいる。
が、ひとまず、それは措くとしても。
長光寺とは、一体どこか。
種々調べてみると、番場、柏原附近にも古くからの寺院は多いが、どうも伊吹山四院とその頃よばれていたうちの一寺らしい。「大日本史」にこういう記載がある。
元弘三年五月中
光厳帝、後伏見、花園
六波羅ヲ落去
伊吹山太平護国寺ニ幸シ
留マルコト十八日
京師ニ帰ル
これでみれば、みかどたちのお身柄を、やがて一向堂からそこへお移しした者は、決して賊徒の輩ではなかった。伊吹の佐々木道誉であったことはもう明白といってよい。
伊吹の西の麓、伊吹山太平護国寺はたんに、太平寺ともいわれ、佐々木道誉の城府とは、ほとんど森を接していた。
また太平寺にはそれいぜん、亀山上皇の御子が僧化しておられたことがある。