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しゅうふうふき
秋風不帰
山本 周五郎
Read 秋風不帰 (しゅうふうふき) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,593 characters · 28 screens
三
息をつく暇もなく外を走り過ぎる追手の足音が聞えた。……際どい、ほんのひと足違いのことであった。
「黙って、……おいらのする通りにしてな、大丈夫逃げてみせるから」
――さっきの馬子だ。
夏雄は、そう気付いた。
――では今の放れ馬もこの少年の……。
「よし、さあこっちだ」
少年は夏雄に囁くと、静かに外の様子を窺ってから、薪小屋の蔭へととび出して行った。
草原の向うで、追手たちの呼び交わす声が、濃くなった夕闇を揺るように聞えていた。
三
風が出たのであろう、裏の竹藪が寒々と、葉ずれの音をたてはじめた。
夏雄は、旅装も解かず坐っている。
ひどい家だ。……軒は傾き壁は落ち、柱は危く屋根を支えているというばかり、煤けた古行灯の光に照しだされた家の内は、まるで洪水にでも流されたように家財らしい物は一つもなく、ここに人が住むかと疑われる有様だ。
月昌寺の森をぬけて、大篠山の中腹から杖折峠の裏と思われる谷間の、ここは殆どどん詰りに当っているらしい。……二里近い道をひた走りに逃れて来た夏雄は、いま馬子の口から驚くべき話を聞かされたところである。
彼は正に動顛していた。
一昨年の春、父与右衛門は城中で突然乱心し、主君備前守正治に斬りつけようとして、近習の者に刺殺されたという。