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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
Read 花と龍 (はなとりゅう) by 火野 葦平 (ひのあしへい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 410,131 characters · 824 screens
「ならん」
「ほんとに、盗んだとじゃないけえ」
「やかまし、行け」
男にはげしく肩をつかれて、マンはしかたなく先に立った。
黒服の男は専売局の役人である。煙草が専売制になると、厳重な規則ができた。この部落でも作っている家が多いが、段に何本と定められ、それは専売局の原簿に記帳される。種は専売局からもらい、葉の数は精密に調査されて、一枚も私することはできない。ただ、葉の上、中、下とそれぞれ味がちがい、役にたたぬ部分もあり、その落ちた何枚かを自家用に吸うことだけが、大目に見られていた。
山峡の底は日没が早く、二人が歩いてゆくうちに暗くなる。点々とある家に、ランプがともる。ツクツク法師と狐とが鳴いている。
淵になった谷川の横に、水車小屋があった。水車がゆるく廻っている。そこまで来ると、役人は立ちどまった。あたりを見まわしながら、
「ちょっとお待ち」
「なんぞ……?」
「話したいことがある。そこの水車小屋に入んなさい」
マンは、ちらと水車小屋に視線を投げたが、その切れのながい、大きな眼に、不安のいろが浮かんだ。
「話なら、ここで聞きます」
「ちょっと、お前の持っとる煙草葉の数を読みたいんだが、外では風で飛ぶ。