Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

わかきひのせっつのかみ

若き日の摂津守

山本 周五郎

Read 若き日の摂津守 (わかきひのせっつのかみ) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 23,437 characters · 47 screens

Aozora Bunko

七

光辰は槍をおろした、「民部」と云って、困惑のあまり泣きそうな顔になった、「おれは、鹿を見た、そして道に迷った」

「槍をおあげ下さい」

「迷って、疲れて、喉が渇いた」と光辰は詫びるように云った、「おれは嘘は云わない、たしかに鹿を見たのだ、おまえ、民部も見た筈ではないか、見なかったのか」

民部はじっと光辰の眼をみつめた。

「重太夫には云わないでくれ」と光辰は囁いた、「おれは疲れて、喉が渇いていた、それでちょっと寄って、休んで、へんな茶を啜っただけだ、それだけだ、本当だ、民部、――重太夫に知れるとまた叱られてしまう、小屋へ寄ったことは黙っていてくれ、黙っていてくれるな、民部」

「どうぞお槍を」と云って、民部は光辰の槍を受取りながら、囁いた、「御寝所へ差上げるものがございます、ごらんになりましたらすぐお焼き捨て下さるよう、――私は一命を抛って御奉公する覚悟でおります」

光辰は気のぬけたような眼で、ぼんやりと民部の顔を見ていた。

七

それから数日のちの夜、一綴の書類が寝所へ届けられた。

誰が入れたかわからなかった。光辰が読書のために起きるまえに、宿直の間の西側の襖があき、その書類を入れると、すぐに襖を閉めた者があった。