Japanese reading practice

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わかきひのせっつのかみ

若き日の摂津守

山本 周五郎

Read 若き日の摂津守 (わかきひのせっつのかみ) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 23,437 characters · 47 screens

Aozora Bunko

「困ったことができた」と光辰は口のまわりを拭きながら、持っている書類を見せた、「この書き物なんだが、おまえ文字が読めるか」

「仮名文字だけでございます」

「ではざっと話して聞かそう」

光辰は書類の内容をあらまし語ってから、数日まえ、槍の稽古のときに永井民部の云ったことを、告げた。

「読んだら焼けというが、おまえどうしたらいいと思う」

「わかりません」とおたきは答えた、「殿さまのおぼしめししだいでは、いけませんのでしょうか」

「それがわからないのだ」

光辰はいつも読書のときに使う文台へ肱をつき、両手で頭を押えて、低く呻いた。

「わからない」と光辰は呟いた、「おれのこの鈍い頭では、判断がつかない」

「そこに書いてあることが、不審だと仰しゃるのでしょうか」

「そうではない、これは事実だ」と光辰は云った、「これと殆んど同じ訴状を、江戸でもひそかに受取ったことがあるし、その中の幾つかは、おれにも事実だということがわかっている」

「では、なにがお気懸りなのですか」

光辰は沈黙した。それはいたましい沈黙であった。対決すべき問題に直面し、それに抵抗する方法を考えているというより、そこから逃れ出るみちを求めている、というふうな、絶望的なものが感じられた。