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おちぼひろい

落穂拾い・犬の生活

小山 清

Read 落穂拾い・犬の生活 (おちぼひろい) by 小山 清 (こやまきよし) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 239,741 characters · 486 screens

Aozora Bunko

朴歯の下駄

むかしの話だ。

私がそのみせの前を通ったとき、そこの番頭さんが、

「よう、前田山。」

と私のことを呼びかけた。その頃私は廓を歩くと、いつも「応援団長」とか「朴歯の旦那」とか呼ばれた。私は久留米絣の袷を着て、袴をはいて、そうして朴歯の下駄をガラガラ引き摺って歩いていたのである。私にはそのほかにどんなよそゆきの持ち合せもなかったのだ。「前田山」は頬をほてらせてみせの中へ入っていった。私はもう上気していて、履物を脱いでしまったような気持になっていた。番頭さんは、

「学生さんには、またそのように、遊んでいただきます。」

など殊勝なことを云った。私はすでに学生ではなくて、貧しい勤人の明け暮れを送っていたのであるが、日没頃の物悲しさをもてあますようになっていた。番頭さんは私の顔を窺って、

「若いのがいいでしょう。」

「うん。」

番頭さんは初見世と書いてあるびらを指さし、

「この妓がいいでしょう。今日でまだ三日にしかなりません。」

私はまずその妓の印象を得たいと思い、そこに並べてある写真の中を探してみたが、見つからない。私は決して気難しい男ではないが、ただあまり邪慳な感じのする女には、ぶつかりたくないと思った。