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おちぼひろい
落穂拾い・犬の生活
小山 清
Read 落穂拾い・犬の生活 (おちぼひろい) by 小山 清 (こやまきよし) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 239,741 characters · 486 screens
」
「成功しないところがだろ。情緒纏綿とした後日談でも欲しいところだが、事実は曲げられないからね。なんにしても昔の話さ。しかし今でもふと思い出して独り顎を撫でたりすることがあるよ。」
そう云ったら自ずと手が顎へいった。掌に無精鬚がじゃりつく。写真よりはお綺麗か、太宰さん、そねめ、そねめ、思わずにやりとしてハッと気づき、客の顔を見ると、視線は私の頭上を越して、なにやら低徊している。私の背後には床の間があり、壁間には太宰さんの書幅が、あ、これか。――待ち待ちて ことし咲きけり 桃の花 白と聞きつつ 花は紅なり。作品「葉桜と魔笛」の中にある、読者は先刻御承知の太宰さんの歌である。太宰さんが武州御嶽の麓の宿屋に滞在して「正義と微笑」を執筆して居られた時、一日私は御邪魔して一晩泊めて戴き、翌日園子さんを負って奥さんが迎えに来られ、私も一緒に三鷹へ帰った。その折酔筆淋漓、障子紙に書いて下さったのが、この歌である。その後私は徴用になり、三河島の日本建鉄工業株式会社に動員されたが、同じ仲間に経師屋さんがいて、私はその人に頼んで表装してもらった。例の三月十日の空襲に私は下谷竜泉寺町に於て罹災し、その際この書幅と若干の拙作、それに奉公袋を風呂敷包みにして持って逃れた。