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おちばのとなり
落葉の隣り
山本 周五郎
Read 落葉の隣り (おちばのとなり) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 28,877 characters · 57 screens
二段になっている文台のような道具で、青貝入りの金蒔絵がみごとに仕上っている。下段は四枚の扉があり、中央の二枚が左右に開くのだろう、合わせめに小さな銀の錠前が掛っていた。蒔絵は暗い朱色の地に、金でこまかく秋草が散らしてあり、ところどころに青貝が光っていた。
「たいそうなもんだな」繁次は手を伸ばして、そっとこばを撫でながら云った、「おれなんぞにはよくわからねえが、こりゃあたいそうなもんだ」
「なにか気のつくことはねえか」
「どういうことだ」
「これを見てくれ」参吉は指で、青貝の部分をさし示した、「ここと、ここと、これだ」
「うん」繁次は眼を近づけた、「――虫のようだな」
「鈴虫だよ、忘れちゃったか」
繁次は「鈴虫」と口の中で呟いた。
「いつか絵図を見せたろう」
「ああ」と繁次は云った、「口まで出かかってたんだ、小村屋の文台だったな、たしか」
「厨子っていうんだ、鈴虫の厨子だ」
「だっておめえいま、自分で作ったって云やあしなかったか」
「頼まれて写しを作ったんだ」
「へええ」繁次はもういちど熱心に見直した、「そういえば、あのとき見せてもらった絵図とそっくりのようだな、いつのまにやったんだ」