Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
あしはみていた
葦は見ていた
山本 周五郎
Read 葦は見ていた (あしはみていた) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 17,985 characters · 36 screens
四
女は声をあげて泣き、幾たびも彼の腕を噛んで、その自分の歯の痕へ狂ったように頬ずりをした。
帰国してからまもなく、彼は無名の手紙で料亭へ呼びだされた。新京橋に近い、「源宗」という料理茶屋で、いってみるとおひさであった。彼女はすっかり窶れて、病人のようにみえた。彼女は計之介を見ると哀れに笑い、肩をちぢめながら云った。
――どうぞ叱らないで下さい。
――どうしたんだ。
彼にはわけがわからなかった。
――お願いですから叱らないで。
おひさは彼にしがみつき、そして激しく泣きだした。
四
計之介はちょっと黙った。
「それは知らなかった」と東次郎が云った、「そうか、江戸からやって来たのか」
計之介は暫く黙って、それからまた話し続けた。
おひさは江戸をぬけて来、この城下の木花町で芸妓になった。彼に逢おうとは思わなかった、ただ彼のいる土地に住みたい一心だった、と云った。
――でも一度だけおめにかかりたかったので、思いきって手紙をさしあげたんです。
おひさはそう云って微笑した。
――これで気が済みました、いちど逢えたし、同じ土地にいられるのだから本望です、もう二度と御迷惑はかけませんわ。