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われはうたえども やぶれかぶれ
蜜のあわれ・われはうたえども やぶれかぶれ
室生 犀星
Read 蜜のあわれ・われはうたえども やぶれかぶれ (われはうたえども やぶれかぶれ) by 室生 犀星 (むろうさいせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 45,726 characters · 90 screens
ほんとうのことを言えばそうなのだ、どんな大切な物と交換してもよいから、ちょっとだけ普通の人間のように小便させてくれませんか。これは今夜のねがいなのだ、今夜のねがいは後ろに何十年もやって来た果の果のねがいなのだ。だが閉尿は固く遂に私の膝がしらも腰もしびれ、扉につかまりながら私はやむなく廊下に出て行く。
寝所にはいるとまた起き上って足袋をはき、羽織を着てはばかりに往く用意をする。どうにもじっとはして居られないのだ。書斎から茶の間への襖一枚、茶の間から勝手の板戸を開け、次の化粧の間の襖から湯殿への板戸が締まり、そこの小廊下の板戸から離れに渡る三尺の土間を飛び越えねばならぬ。はばかりはその離れの縁側づたいにあるのだ。都合六枚の戸がどんなに気をつかって見ても、戸の軋る音が何処かでして来る。勝手から化粧の間の戸を明けると電灯がぱっと点く、毎晩の気違いじみた便所通いに黙っていられなくなって節マリ子が、からだを夜具から半身起していうのだ。先刻いらっしったばかりなのに大変でございますね、お廊下の電灯をおつけしましょうか、いや、そのまま電灯を消して寝ていなさい、起きないでくれと私は懐中電灯をかざして三尺土間を離れに向って飛び越える、その突き当りの部屋に奥テル子が寝ていた。