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われはうたえども やぶれかぶれ
蜜のあわれ・われはうたえども やぶれかぶれ
室生 犀星
Read 蜜のあわれ・われはうたえども やぶれかぶれ (われはうたえども やぶれかぶれ) by 室生 犀星 (むろうさいせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 45,726 characters · 90 screens
私はわずか二三日で自分の体力の増益しているのを感じ、あの男の眼光にむき合える気がして来た。自分の嫌いな男にぴたっと眼を合すことは迂愚の沙汰だろうか、五米前あたりから私は瞬きのない眼を向け、その男も負けるものかというぎょろりとした例の眼つきを私にあびせかけた。その男も私同様私を憎むことによって私の存在をとうから嫌っていることが予知された。擦れ違う時に二人は眼を合せただけで、その眼が限界に来ている睨みあいの発展もなく、彼はエレベーターの方に行き、私は放射線室に順番を得て這入って行った。間もなく今までなかった動悸が打ちはじめ、私の髪の根がいたみ俯向きになって放射を受ける用意にかかった。何というむだな時間をあの男の前でついやしたことだろうと、私はそれをくやしく感じた。遠い海鳴りが例によって起り、広やかな冷却しきったこの放射線室に私は十分五秒の永い時間をむかえた。もう思いうかべるおんなの姿もなく只の患者として石のころがるように転がっていた。誰にこんな時間に此処に転がっている私のことを告げよう。
終射後、今日も手押車や寝台車が何台も廊下に続いた。患者が婦人の場合、すべてが白い車上に女の髪だけが、乱れて生気を帯びて見られ、怖いほど髪というものの表情がばっさり束ねたあたりから、妖気を見せ、いきいきと其処だけがとぐろを巻い