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われはうたえども やぶれかぶれ
蜜のあわれ・われはうたえども やぶれかぶれ
室生 犀星
Read 蜜のあわれ・われはうたえども やぶれかぶれ (われはうたえども やぶれかぶれ) by 室生 犀星 (むろうさいせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 45,726 characters · 90 screens
て、いくらかの懐しみさえ見せていた。
夜中に眼をさましていると、この頃きまって頭の中で原稿を書くようになった。或る新聞に一ヵ月くらい書く約束のある履歴書風の文体が、毎晩永い時は二時間くらい、うつうつしていながらそれを頭の中で書いていた。七、八、九、十、十一月の五ヵ月間原稿や葉書の返事も書くことに全然気のなかった私は、そこらを睨んで見て戻って来たぞ、あいつが戻って来てうずき始めたぞと病室を眺めわたした。あいつが戻って来たからには私はもう書けるようになったのかも知れぬ。健康がもどって来る時に連れた文章という物も、つづまり私と同様に永い間病臥していて治れば二人づれで仲よく戻るわけになるのだ。文章という奴も白魚や若さぎの水中の列を見るように、はてもなく見えている。あれを書きこれを起し題は何とつけたらよいか、私は起きて蛍光灯の一般照明灯を点け、さらに等身くらいある電気スタンドをともし、病室の白昼を呼び戻して見た。文章の怨霊ともいう奴はそれらの強い光の中でも消えることなく、私の頭に少しの危気ない順序を立てて現われた。たしかに奴が戻って来たことが確かめられた。