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われはうたえども やぶれかぶれ
蜜のあわれ・われはうたえども やぶれかぶれ
室生 犀星
Read 蜜のあわれ・われはうたえども やぶれかぶれ (われはうたえども やぶれかぶれ) by 室生 犀星 (むろうさいせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 45,726 characters · 90 screens
ガキの箸はその上を舞い上っていはしていたものの、下降してつまみ上げることが最早なかった。
男はやはり毎晩書くことになやまされた。書ける気が厚くなってそれを行うことが治療の側でも、いりようであった。丁度、退院ということの打ち合せを秋成主治医と話をすました午後に、一人の看護婦さんが私の著書を持って三人の同僚からたのまれて署名をもとめに来た。それは何となく私をあつかうのにしんせつだった三人の看護婦さん達だった。私は言った、明日此処を立とうとしているのに署名もないもんだ。もっと先にそれを言って貰えば同じ注射をしてもらうにも、そんなに痛いとは思わなかっただろうにと私はわらって言った。彼女はそうは気がついてはいましたが仕事と私事とが一しょになるのが恥かしくてといった。間もなく病室の中はトラックの運転手や運搬人の出入りで、荷物が動きはじめた。私は井荻看護婦を眼でさがしている間にもう廊下に出てしまい、階下に何かの打ち合せに行っている井荻に会えなかった。が、井荻にも礼の一つは言いたかったのだ。エレベーターが下降して来てそれに乗りこんだ私は、誰かと話をして廊下の方を見なかったが、大勢の人が立っている様子は見られたけれど、秋成主治医と例の三人の看護婦さんが見送ってくれていたことは、後に相子から聞いて知った。