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われはうたえども やぶれかぶれ
蜜のあわれ・われはうたえども やぶれかぶれ
室生 犀星
Read 蜜のあわれ・われはうたえども やぶれかぶれ (われはうたえども やぶれかぶれ) by 室生 犀星 (むろうさいせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 45,726 characters · 90 screens
私はガキのようになって食う物を一日ずつふやし、膳の上についている物をみんな食った。五時に大きい包みを提げてあらわれる相子の靴音を、時計に睨みあわせて待った。京橋の寿司屋に生きたコチとか鰈とかを料理する店があったが、相子はそこでさしみを仕入れ、煮附にするまぐろを仕入れ、その包みをひろげているのを寝台の上から眺め、その男は鴉のように食うことを急いだ。鴉は爪の音を立てて寝台の鉄の棒をかりかりやって、抗生物質で焼けたフィリッピン人のような額を拭いた。この鴉は一人で食っているというより、どうやら例の怨霊と一緒に箸をつかっているようだ。胃の悪いこの男が一人で斯様に大量に物を食う筈がないように思えたからである。ガキのような男は最後にのこした一とつまみの菜っ葉の屑を見て、それを食べようか食べまいかに打ち迷い、箸をつかいながら食慾というものと対い合って、決断のつかない有様だった。一とつまみの菜っ葉に何があろう、何がこの男にはたらくというのであろう、だが、この男のこの夕方の思いはここから去らなかったのだ、ここにみな集められていたのだ。更に幾すじかのさかなのさしみというものも、皿の上にのこっていて、切り口に青貝のような光を見せていた。